4月9日「いろいろ」

今夜は夜勤がない。眠りたいけど眠るにはもったいない夜。

昨夜の雨に比べて、今朝はとてもいい天気だった。今日の仕事は11時からだったので、いつも通り9時前に着くように大名に行き、喫茶店で時間を潰した。獏も風街も開店前だったから松下記念館という喫茶店に行った。古びたいい喫茶店で、9時過ぎに着くと広めの店内に馴染みらしい男がひとりいて、店員の女性と会話しながらモーニングを食っていた。

僕は最初テーブルに座ろうとしたのだが、これから2時間近くもいるのだし、いずれ店も混むだろうと思ってカウンターの一番端っこの席に移動した。

ムルソーのことを考えながらカフェオレを頼み、A.ピエール・ド・マンディアルグの『オートバイ』とタバコをテーブルの上に出す。この小説は、地元の古本屋で偶然目に留まった代物で、知らない作家だったけれど、『熊を放つ』を読んで以来、バイクを題材にした小説には興味があったので買ってみたのだった。

物語が始まる前に、作者はアラン・エドガー・ポーから引用していた。

嵐の一夜、メツェンゲルシュタインは、深い眠りからさめると、狂ったように部屋を出て、急いで馬にとびのり、鬱蒼たる森をわけて、疾駆した。

この一文だけで、この小説がどんなものなのかというイメージがみるみるうちに膨らんでいく。ページを開きたくなる。もちろん内容はイメージ通りというわけではない。例えば主人公がハーレー・ダビットソンを駆るスイス生まれの19歳の女の子だとは思ってもみなかった。なるほど確かにフランス語ではバイクは女性名詞だ。関連性があるのかわからないけれど。

小説の構造や背景も面白そうだ。まだ序盤しか読み進めていないからわからないけれど、主人公は受け身で控えめな年上のフランス人夫の赴任に付き添い、ドイツ国境近くの城塞のある街で暮らしていて、ドイツに住むサディスティックな男と浮気をしている。夫は主人公が夜にバイクで飛び出て行くことを悲しみつつも容認している。主人公たちが住むアルザス地方はドイツ系の住民も多く、文化的にも仏独両者の影響がある地域だ。主人公の女が夜更けと共に国境を越えたあたりまで読んだところで、喫茶店の店主に話しかけられた。

「よくそんな小さい文字が読めるねえ」と白髪の小柄な女は言う。返答に困る。「ええ、まあ好きですから」と僕。全く的外れで苦し紛れの回答だ。幸い、女店主は質問を変える。「どこから来たの?」「I駅です」「まあ懐かしい。あのあたりは私も昔・・・」「そうなんですね、それはどうして?」と会話は続いてゆく。

すると突然カウンターの僕の隣の席に女が一人電話しながら座ってきた。その女は社内の人間と電話をしているようで、はじめ電話だけだったのだがパソコンを取り出してファイルを開き激しくタイピングをしながら語調は徐々に強くなった。そうこうして僕は本をカバンにしまい、エスプレッソを注文して、あとはただ壁を見つめてタバコを吹かしていた。

その頃、ユーキがインスタグラムで僕の作品集を庭で読んでいる写真をアップしてくれていた。嬉しくなった。こういう出来事を忘れないでいたい。

そのうち11時に近くなったので職場に行って働いた。特筆するようなことはあるようでない。

仕事が終わり、近くで天ぷらを食って家に帰った。それから夕飯はうどんに茹でたもやしとキャベツを乗せてドレッシングをかけて食べた。悪くない。飯を食いながらY丸が毎日投稿している掌編小説を読んだ。それからブログを書き始めた。

そしてピーターがキッチンにやって来たので四方山話に花を咲かせた。お互いに爆笑する場面もいくつかあって、英語でなんとかやりとりできていることに満足した。もちろん破れかぶれの英語だけど。

福田さんのお便りが僕の大好きなラジオ番組で取り上げられたらしい。ピーターと話したりコンビニに行ってアイスを買いに行ったりこのブログを書いたりするのにかまけて今夜は聴くことができなかったから明日にしよう。一体全体どんな投稿をしたのか聴くのが楽しみだ。