昔、伊勢丹の地下で販売員をしていたときに隣の店の女の子が写真家だと知り彼女の撮った何枚かの写真の連作に僕が詩をつけて発表しようとなって書いたやつの墓。それからすぐ僕はカナダに行って連絡も取らなかったので、彼女の個展や僕の詩がどうなったかは知らない。昨日クラブから朝帰りした話を書いたからかこの詩を思い出した。だからここに供養。
「無題」
わたしは見た
鳥が深海を飛んでいて
まだらの猫が空を泳いでいた
人魚の目を手に入れて
わたしは夢を彷徨っている
ほんのりと赤い部屋に大きなまるい物体があった
わたしがそれに触れると突如
それはわたしをつかまえて強い力で中へと引きずり込んだ
すぐにわたしは溶かされてわたしと物体は無数に分裂を始めた
その数幾千幾万幾十億
すんごいむかし僕らは魚だったのかなと
細切れのひとつがささやいてくる
そんなの知らない
でもそうだったら素敵だと思う
長い長い長い時間と何世代もの受け継がれた命を費やしてきた果てに
わたしたちが日がな一日プランクトンを探す以外にできるようになったこと
日曜午後のぶらぶら歩き 小銭の計算 昼夜ぶっ通しで続く誕生日パーティ ほろ酔い気分でサロメ踊り 叫びの朗読 耳の裏への柔らかな口づけ
残念ながら地球はもうすぐ終わり未来はないと聞かされて育つ子供たち
それならばそれで
音楽の波間に飛び込んで
極彩色の海の中で手に手を取り合って飛び跳ねよう
そして踊り疲れアルコールが染み込んだ全身を朝陽に晒し
終焉に向かう始発列車を待つだけ